飲食店経営を悩ませる
「飲食店の人手不足」の５つの原因

人手不足の飲食店の割合は「77.3%」と非常に高い

まずは、下記の表をご覧ください。

人手不足企業の割合の推移 （上位10業種）

出典：帝国データバンク「＜速報＞人手不足に対する企業の動向調査（2022年9月）」（一部筆者加工）

上記は、帝国データバンクが2022年9月に実施した調査による、上位10業種における人手不足企業の割合の推移を示した表です。非正社員に限定したものですが、飲食店の人手不足企業の割合は他業種と比べて77.3%と最も高く、かつ、年々人手不足が深刻化していることがわかります。

また、求人状況についても見てみましょう。厚生労働省が公開している一般職業紹介状況の資料によると、2024年10月時点で飲食店に関わる下記2職種の有効求人倍率は以下の通りです。

飲食店に関わる２職種の有効求人倍率（2024年10月）

• 飲食物調理従事者 …2.83倍
• 接客および給仕職業従事者 … 2.90倍

※全職種の有効求人倍率 … 1.16倍

引用：厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」

有効求人倍率とは、求職者1人あたりに提供されている求人の件数を示す指標です。2024年10月時点の全ての職種の有効求人倍率が1.16倍であることから見ても、飲食業全体でいかに深刻な人手不足が進行しているかがわかります。

では、このような飲食店の人手不足は、どういった原因によるものなのか、次に解説します。

飲食店における人手不足の５つの原因

飲食店における人手不足の背景には、様々な要因があります。ここでは、人手不足の主な原因として考えられる５点について解説します。

原因１：少子高齢化による労働人口の減少

日本では少子高齢化が進行しており、労働市場における生産年齢人口（15歳から64歳まで）の減少が顕著です。下記の、内閣府が発表した「令和4年版高齢社会白書」から引用したグラフをご覧ください。

高齢化の推移と将来推計

出典：内閣府「令和4年版高齢社会白書 第1章　高齢化の状況（第1節 1）」

2021年時点で日本の高齢化率は28.9％に達しており、今後さらに上昇が見込まれています。この人口構造の変化により、生産年齢人口の割合が縮小し続けることが予測されています。

特に飲食業界では、若年層の労働力に大きく依存しているため、人口減少の影響を直接的に受けています。地方では人口流出が進む一方で、都市部でも全体的な労働力供給が減少しているため、労働者を確保する競争が激化しています。このような構造的な問題により、飲食業界では人手不足が慢性的に続いており、店舗運営に深刻な影響を与えています。

原因２：低水準の賃金

飲食業界全体での賃金の低さも、人手不足の原因のひとつとして考えられます。下記は、厚生労働省が発表した「令和5年賃金構造基本統計調査の概況」より引用したデータです。

産業､年齢別賃金および対前年増減率（2023年）

出典：厚生労働省「令和５年賃金構造基本統計調査の概況」（一部筆者加工）

上記データを見てわかるように、「宿泊業、飲食サービス業」は全産業の中で最も平均賃金が低い水準にあります。飲食業界では長時間労働が常態化しているにもかかわらず、その対価としての賃金が他業種に比べて大幅に劣っているため、人材確保の競争において不利な状況にあります。

特に都市部では生活コストが高く、飲食店の賃金では十分な生活を送るのが難しいという現状もあります。この低賃金の問題は、業界全体の魅力の低下につながっており、若年層や経験者が他業種に流出する大きな要因となっています。

原因３：競争激化により人材の奪い合いが起きている

原因1で述べたように、働き手となる人口の減少が進んでいる昨今では、労働市場全体で人材の奪い合いが起きています。特に物流や介護、IT業界などでは、飲食業界よりも労働条件が良い場合が多く、労働者がこれらの業種へ流れる傾向が強まっています。

参考：厚生労働省「令和４年版 労働経済の分析 第２章 我が国の労働移動の動向」

また、飲食業界内でも、大手チェーン店と個人経営の店舗では採用力に差があり、給与や福利厚生を手厚くできない小規模店舗ほど求人が難しい現状があります。このような状況が、飲食業界全体で慢性的な人手不足を引き起こしています。

原因４：働き方改革による影響

2019年4月から「働き方改革関連法」の施行により、労働時間の短縮や有給取得の義務化が進められていますが、これが飲食業界にとっては新たな課題となっています。

本来、この法律は長時間労働や休日返上での業務を是正するものですが、一方では、スタッフ数が十分でない飲食店においては、既存スタッフで全ての業務を補わなければならず、改革の取り組みが困難という問題が、新たに発生しています。

下記は、農林水産省の資料から引用したグラフです。

働き方改革に関するアンケート調査結果

出典：農林水産省「働く人も企業もいきいき 食品産業の働き方改革検討会 取りまとめ」(一部筆者加工)

これを見ると「働き方改革は必要だと思うか」についてのアンケートに対する回答として、マネジメント層と従業員ともに「まだ取り組めていない」とする回答が最も多くなっています。さらに、その理由としては、「人材、設備、資金が少ない」「企業規模が小さく余力がない」という回答が多いことがわかります。

このように、働き方改革が推進される一方で、実態としては余裕がなく取り組みが困難な状況にあります。特に、中小規模の飲食店では人手が限られているため、スタッフ1人あたりの負担が増え、結果的に離職率が高まるという悪循環に陥っており、人手不足の深刻化につながっています。

原因５：労働環境と飲食業界に対するイメージ

働き方改革によって、厳しい労働環境の是正が進められているものの、前項で述べたように、現場では十分な人材確保が難しいため、改革が行き届かずに課題が残る店舗も多いのが現状です。特に中小規模の飲食店では、人手不足によりスタッフ1人あたりの負担が増え、労働環境の改善が進みにくいという悪循環が続いています。

さらに、飲食業界全体に「厳しい職場環境」「給料が低い」などのイメージが定着していることも、人手不足を加速させる要因となっています。下記は、株式会社ファンくるが実施した意識調査のデータですが、「飲食店で働きたいと思うか？」の問いに対する回答として、「働きたい」と回答した方が18%であるのに対して、「働きたくない」と回答した方が43%という結果になっています。

飲食店での就業についての意識調査結果

出典：株式会社ファンくる「飲食店での就業についての意識調査」（一部筆者加工）

同リンク先の記事では、働きたくないと回答した理由も記載されていますが、「給与が低そうだから」「残業が多そうだから」といった理由が挙げられています。

過去に取り上げられたブラック企業問題の影響も大きく、こうしたネガティブなイメージは、若年層や未経験者の応募を妨げる一因となっています。結果として、業界の労働環境の改善が追いつかない店舗では離職率が高止まりし、新規人材の確保が難しい状況が続いています。

これら５つの原因は、飲食店における離職率の高さや人材の定着率の低さに直結しており、慢性的な人手不足につながっているのです。

では、飲食店が抱えるこのような人手不足の課題を解決するソリューションについて、次に解説してまいります。

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飲食店の人手不足を解消するための７つの方法

飲食店における人手不足の問題は、単一の施策で解消できるものではありません。店舗の運営体制や業務内容、スタッフの働き方など、多角的な観点での取り組みが必要です。ここでは、飲食店の人手不足を解消するための具体的な7つの方法を紹介します。

方法１：労働環境を改善する

人手不足の解消のためには、まずは労働環境そのものを改善することが重要です。労働時間の適正化やシフトの柔軟性を高める取り組みを進めることで、スタッフの負担軽減と定着率の向上が期待できます。具体的には、以下のような取り組みが挙げられます。

労働環境の改善への具体的な取り組み例

• 週休2日制の導入
• 短時間勤務を希望するスタッフへの配慮
• 適切な休憩時間の確保
• 有給休暇の取得促進
• 安全で快適な作業環境の整備
• スタッフ向け福利厚生の充実

しかし、先に述べたように、特に中小規模の飲食店では十分な人材確保が難しい中で、この課題に向き合うことが容易ではないのが現実です。すべてを一度に変えるのではなく、少しずつ取り組むことで効果を生む方法を採っていくべきでしょう。

まずは、スタッフの希望を取り入れたスケジュール管理を行うだけでも、負担軽減につながる可能性があります。また、業務ツールや作業動線の見直しを通じて、スタッフの作業負担を軽減することも一つの手段です。スタッフが「感謝されている」「大切にされている」と感じられるような環境づくりも、労働環境の改善の一環となります。

方法２：現場業務を効率化する

人手不足の飲食店において、現場の業務を効率化することは、限られたリソースを最大限に活用するために必須です。業務の負担を軽減し、スタッフがより重要な業務に集中できる環境を整えるために、以下のような取り組みが有効です。

現場業務を効率化する具体的な取り組み例

• 手書き伝票を廃止し、電子端末を導入
• メニューの簡素化や調理工程の見直し
• キッチンとフロアスタッフ間のデジタルツールの活用
• 予約管理や在庫管理などのシステム化による効率化
• 営業時間外に行う準備作業の簡素化

例えば、オーダー伝票の管理や会計処理といった日常業務の手間を軽減するために、電子端末を活用すれば、作業時間を短縮できるだけでなく、伝達ミスを防ぐことも可能です。また、メニューの見直しにより調理時間を短縮すれば、限られたスタッフでもスムーズな運営が実現します。

現場業務の効率化は、単に作業を減らすだけでなく、スタッフ全体の働きやすさを向上させる効果もあります。これがスタッフの満足度や定着率の向上につながり、最終的には人手不足の解消に寄与するのです。

方法３：スタッフのモチベーションを高める

スタッフのモチベーションを向上させることは、人手不足解消において重要な施策のひとつです。モチベーションが高いスタッフは、離職率の低下や業務効率の向上に寄与し、店舗全体のサービス品質向上にもつながります。スタッフが働きやすく、やりがいを感じられる環境を整えることが欠かせません。

スタッフのモチベーションを高めるための具体的な取り組みとしては、以下のようなものがあります。

スタッフのモチベーションを高める具体的な取り組み例

• 成果に応じた昇給やインセンティブの導入
• 日々の業務できちんと褒める、感謝を伝える
• スタッフの意見を反映するミーティングの実施
• 明確なキャリアアップの道筋を提示

これらの取り組みを通じて、スタッフが「この職場で頑張りたい」と思える環境を整えることが、人手不足の根本的な解決につながります。

方法４：スポットワークサービスの活用

昨今、飲食店の人手不足解消策として注目されているのが、「タイミー」や「メルカリハロ」などのスポットワークサービス（スキマバイトサービス）の活用です。これらのサービスは、短時間や単発の仕事を希望する人と、急な欠員や一時的な人手不足に悩む店舗をマッチングするプラットフォームを提供しています。

一般社団法人スポットワーク協会の調査によると、2024年5月末時点における国内のスポットワーク登録者数は約2,200万人で、2023年3月末時点の登録者数の約2.2倍となっており、登録者が急速に増えています。

引用：HRog「いまさら聞けない「スポットワーク」をまるごと解説！特徴や課題、大手5サービスを知ろう」

スポットワークサービスは、求人広告を出す手間を省き、サービス内で簡単に募集ができるため、緊急時でも迅速に人材を確保することが可能な点が大きな特徴です。また、登録者のスキルや評価を確認できるため、必要に応じて適切な人材を選ぶことができ、店舗の業務に即戦力として貢献します。

さらに、これらのサービスは、フルタイムや長期雇用が難しい主婦や学生、Wワーカーといった層の労働力を活用できる点も魅力です。スポットワークサービスは、特に繁忙期や急な欠員対応において非常に有用であり、これを活用することで、人手不足の課題を迅速かつ効率的に解決する手段となります。

方法５：ハンディ端末やセルフオーダー端末の導入

ハンディ端末やセルフオーダー端末の導入は、飲食店における注文管理の大幅な効率化を実現します。

これらは、一般的に「オーダーエントリーシステム」と呼ばれる、注文をデジタル端末で管理する仕組みにおいて導入され、フロアスタッフが手書き伝票を使う代わりに、専用のハンディ端末やスマートフォン、あるいはテーブル設置型のタブレットなどのセルフオーダー端末を利用して注文内容を入力します。入力された情報はリアルタイムでキッチンに送信されるため、伝達ミスを防ぎ、オーダー処理のスピードを向上させます。

下記は、ハンディ端末やセルフオーダー端末を使ったオーダーエントリーシステムの仕組みを図解したものです。

飲食店のオーダーエントリーシステムの仕組み

このように、「フロア」「キッチン」「レジカウンター（POSレジ）」「バックオフィス」の4つのエリアが連携して注文データを瞬時に共有するため、注文から調理・提供、会計までの流れが大幅に効率化します。

また、システムを導入することで、注文業務におけるスタッフのトレーニング時間を短縮できる点もメリットであり、特にアルバイトや新人スタッフが多い店舗では業務の負担軽減につながります。

このようなシステムの導入は、限られたスタッフでも効率的なサービス提供を実現し、人手不足の緩和に直結します。さらに、顧客にとってもスムーズな対応は満足度向上につながり、リピーターの増加という形で店舗の成長に寄与します。オーダーエントリーシステムについては、下記記事で詳しくまとめていますので、あわせてご覧ください。

「３種類の「オーダーエントリーシステム」を図解で徹底解説」（11月納品記事）へリンク

方法６：セルフレジの導入

セルフレジの導入は、人手不足が深刻化する飲食店にとって、業務負担を軽減する非常に有効な方法のひとつです。従来、会計業務はスタッフが対応することが一般的でしたが、セルフレジを導入することで、会計を顧客自身が行えるようになります。このため、スタッフの負担が減少し、調理や接客など、他の業務に専念する時間が確保できるのです。

また、券売機型のセルフレジは、注文と会計を一体化できるため、スタッフがオーダー業務を行う必要がなくなる点が大きな特徴です。顧客が注文メニューを直接選択し支払いまで完了できるため、フロアスタッフの負担を大幅に軽減します。これにより、限られた人員でも店舗運営を効率化することが可能になります。

券売機型セルフレジ（スマレジ）

小規模店舗においても、初期コストを抑えたコンパクトなセルフレジを導入することで、効率化を図ることが可能です。セルフレジの導入は、少人数での大幅な業務効率化を実現する、飲食店における重要なDX推進策と言えます。

下記記事で、セルフレジの導入メリットなどをさらに詳しくまとめておりますので、あわせてご覧ください。

セルフレジ導入の３つのメリットとレジ種類・注意点を徹底解説

方法７：配膳ロボットの導入

配膳ロボットは、飲食店における人手不足を補う最新のテクノロジーのひとつとして、近年導入する店舗が増えてきています。配膳業務をロボットが代行することで、ホールスタッフの負担を軽減し、限られた人員でも効率的な店舗運営が可能になります。特に、広い店内や多くの座席を持つ店舗では、配膳作業が従業員の大きな負担となるため、その軽減効果は顕著です。

配膳ロボットには、注文ごとに指定されたテーブルに料理を運ぶだけでなく、回収した空いたお皿をキッチンに戻す機能を備えたモデルもあります。これにより、スタッフは接客や顧客対応といった業務に集中できるようになり、サービスの質向上にもつながります。

初期導入コストはかかるものの、長期的には人件費の削減や運営効率の向上による投資回収が見込め、加えて慢性的な人手不足の解消にも寄与します。

「POSレジ」の導入が人手不足の解消に貢献

飲食店における人手不足の解決策として、POSレジの導入は極めて効果的です。POSレジは、基本的なレジ機能だけでなく、前項で解説したオーダーエントリーやセルフレジ機能をはじめとした様々な機能を備えており、店舗運営全体の効率化により人手不足の解消に貢献します。

以下に、飲食店の人手不足解消に役立つPOSレジの代表的な機能を紹介します。

飲食店の人手不足の解消に貢献するPOSレジの機能

• オーダーエントリーシステム
  タブレットやスマートフォンを活用した注文管理により、注文内容がリアルタイムでキッチンやPOSレジに伝達されます。これにより、注文伝達ミスや会計ミスが減少し、スタッフの手間が軽減されるため、少人数でも効率的なサービス提供が可能になります。
• セルフレジ機能
  会計業務を顧客自身に委ねることで、スタッフが会計に費やす時間を大幅に削減します。その結果、少人数のスタッフでも接客や調理に集中できる環境が整い、現場の負担を軽減します。
• キャッシュレス決済対応
  現金を扱わないことで、会計スピードが向上し、現金管理の手間を削減します。また、レジ締め作業も効率化されるため、スタッフの残業時間が減り、人手不足の緩和に寄与します。
• 売上分析機能日次や月次の売上データを自動集計し、人気メニューや売上傾向を可視化します。これにより、例えば、効率的なメニュー構成やキャンペーン設計が可能となることで、無駄な作業を減らして人員の負担を軽減します。
• 庫管理機能
  リアルタイムで在庫データを把握することで、商品の過不足を防ぎます。在庫切れや過剰在庫の問題を事前に解消することで、追加対応や無駄な作業が減り、スタッフの業務負担を軽くします。
• 勤怠管理機能
  スタッフの出退勤を自動で記録・管理し、シフト作成や労務管理の手間を削減します。これにより、管理業務の負担が減少し、限られたスタッフでも店舗運営がスムーズに行えるようになります。

これらの機能を活用することで、飲食店は業務全体を効率化し、スタッフの負担を減らしながら高品質なサービス提供が可能になります。POSレジは、現場の支援と経営効率化を実現することで、飲食店の人手不足の解消につなげる重要なツールなのです。